|
藪蚊打つ働かぬ足痩せにけり
香水や一人となりし昇降機
てのひらにのせてひやりと干鰈
あの世への口ぽつかりと蝉の穴
好きな子へねずみ花火の回りけり
檸檬切る唇に力の入りけり
秋澄むや盆地の臍に蛇笏の碑
上階の物落とす音耳はじめ
ふんばりの四十半ばや花朧
寒々と待つ寒々と来たりけり
焼茄子を削り鰹のはやしをり
蚊の声の酒の主にささやけり
鯊日和潜水艦の浮いて来し
初鰹その売り声を買ひにけり
髪切つて青き六月はじまりぬ
江ノ島の巨いなる岩したたれり
福袋抱へて福をあたたむる
着膨れて電車の中にかしこまる
焼鳥の煙かぶりてもの申す
色変へぬ松崖の高きかな
交番に巡査が二人冬ぬくし
驚かさぬやうに掴みて蝸牛
なめこ入れ急くな急ぐなわんこそば
園児らの跳ねてたんぽぽ殖やしけり
子供の日なんでも入る袋かな
蜘蛛の囲を大きく張つて蜘蛛の留守
店先にこんがらがつてゐる泥鰌
金魚入れビニール袋くもりけり
上野駅何処からとなく林檎の香
羽根蒲団掛けて卒寿の寝嵩かな
（平成20年5月12日 文學の森刊 2,700円）
|
